男の育児休暇

先週たまたま、三重テレビで「ガイアの夜明け」を後半だけ見た。
頭に引っかかるものが残るので、書いておこうと思う。
後半しか見ていないので、制作意図とは違う視点で見たかもしれない。
それでも、いろいろなブログで取り上げられていたので、見ていない部分も多少は補えたと思う。
ちなみに、三重テレビは独立局なので、ネットワーク局とは番組の放映時期が異なっていて、ときどき面白い番組に出会える。
 
番組では、6か月の育児休業をとった男性社員の様子を描いていた。
彼は、電通ワンダーマンという会社(社員の実名も社名も出ていたので、ここに書いても差し支えないだろう)の社員で、電通グループとしては初めて育児休業をとった男性だという。
育児休業中の給与はゼロ。
彼が休暇をとっても、部署に交代要員は補充されない。
印象的なのは、同僚や上司たちが発する冷ややかなコメントだ。
励ましやねぎらいの言葉は一つもなかった。
彼らは、育児休業をとった社員へ批判的な言動しか表さない。
 
これが、日本の企業の実態だろう。
実態ではあるけれども、全国放送の番組のカメラの前で、社員たちがここまで本音で批判的な態度を示していたことに驚いた。
私がこの企業の管理職だったら、放送時に社名を隠してほしいと懇願するだろう。
これでは、企業イメージがあまりにも悪すぎる。
ところが、番組中に社名ははっきりと出ていた。
つまり、この会社にとって、育児休業への冷たい対応は、なんら恥ずべきものではないということだ。
彼らにとって、全社員が休まずに働いて利益を追求し続けることが最優先事項であり、それを阻害する(ように見える)要因は、すべて邪魔でしかない。
しかし、企業の社会的存在意義は、利益追求だけなのだろうか。
男性の育児休業は、ほんとうに企業にとってマイナス要因でしかないのか。
個人のライフスタイルの選択が、組織や社会全体に与える好影響はないのか。
長期的に見れば、社員ひとりが半年間育児に専念するだけで険悪な雰囲気を生んでしまう状況は、歪んでいるとしか思えない。
だけど、企業にどっぷり漬かっているビジネスマンだと気がつかないのかもしれない。
あるいは、彼らは社会的関心・長期的視野に対する鈍感さを押し付けるような何らかの圧力に押さえつけられているのかもしれない。
 
社員の元部長は、彼に「半年の間に、ビジネスの勘をにぶらせるな」と命じた。
半年で鈍るような「勘」とは、何だろうか。
ビジネスには、「スピード」という面もあるし、短期的に変動する「トレンド」や、日々進歩する「技術」もあるだろう。
でも、そんな表層的なものだけでビジネスが成立するのだろうか。
わずか半年の休暇で、仕事に復帰できなくなる職場があるとすれば、そこは相当に表面的なビジネスしかしていないのではないか。
「俺は休めない。休んだら、もう一生仕事には戻れないんだ」という上司の強迫観念が、部下への忠告として表出したような気がする。
 
これは番組とは関係ないけれど、別のある男性が育児休業をとって、ニュースになったそうだ。
彼は、大学教員だった。
休業期間は、たったひと月。
それも大学の夏期休暇中であれば、ほとんど仕事に影響を与えずに済んだだろう。
たいしたことではない、と思う。
それでも、この国では、まだまだニュースになるらしい。
 
日本の企業に属している限り、育児休業をとることは難しいというのが正直な感想だ。
番組に登場した社員のように、同僚や上司からの重圧を抱え込むくらいなら、私なら仕事を辞める。
結局、辞めても生きていける余裕がなければ、休暇は取れないし、子供はつくれない。
 
政府が、企業に男性育児休業の行動計画の策定を課したり、育児休業への補助金を出しても、解決できない問題が横たわっている。
それは個人レベルの問題で、社会への関心と経済活動への批判的視点、そして多様な価値観・ライフスタイルの選択とそれを受け容れる度量をいかに持てるかということだと思う。
 

日経スペシャル「ガイアの夜明け」 5月17日放送 第161回
私が子供を産めたわけ
http://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber/preview050517.html